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仙台高等裁判所 昭和51年(う)48号 判決 1976年4月30日

主文

原判決中被告人斎藤に関する部分を破棄する。

同被告人を罰金一〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

同被告人に対し公職選挙法二五二条一項所定の選挙権および被選挙権を有しない期間を四年間に短縮する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官が提出した控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人高橋勝夫、同檜山公夫が連名で提出した答弁書記載のとおりであるから、これらをいずれも引用する。所論は、原判決は法令の適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるとして、次のように主張する。すなわち、原判決は、被告人を罰金一〇万円に処し、公職選挙法二五二条三項の選挙権および被選挙権を有しない期間を六年に短縮する旨の判決主文を言渡したうえ、右のように選挙権および被選挙権を有しない期間(以下単に公民権停止期間という)を短縮することの理由として、被告人には昭和三一年公職選挙法違反(供与罪)により禁錮五月、執行猶予一年に処せられた前科があるため、公民権停止の期間は公職選挙法二五二条三項により一〇年とされるが、各情状を考慮しその期間を六年に短縮する旨判示している。しかし、前科調書等によれば、被告人の右前科は、昭和三一年政令第三五五号大赦令により赦免されているのであるから、有罪の言渡の効力を失つたものであるのみならず、執行猶予期間の経過によつても刑の言渡の効力を失つたものであるから、いずれにしても、被告人に対し公職選挙法二五二条三項を適用する余地はなく、被告人に対しては同法条の一項が適用されるだけである。従つて、被告人に対し右二五二条三項を適用し、同条四項により公民権停止期間を六年に短縮した原判決は法令の適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄されなければならない。と以上のように主張するのである。

そこで、原審記録を調査検討し、所論の当否について判断すると、原審で取調べられた前科調書ならびに判決謄本によれば、被告人は昭和三一年二月一七日仙台地方裁判所において公職選挙法違反(同法二二一条一項一号、同条三項該当)の罪により禁錮五月、一年間執行猶予の判決言渡をうけ、同判決は同年三月三日確定したこと、右判決については、昭和三一年一二月一九日政令第三五五号大赦令により赦免の措置がとられたこと、以上の事実が明らかに認められるところである。従つて、右被告人に対する有罪判決は、恩赦法三条一号により既に言渡の効力を失つたものであり、そうでないとしても、記録上前記執行猶予の言渡の取消がなされた形跡は全くみあたらないから、執行猶予期間の経過によつて、既に刑の言渡の効力を失つたものといわなければならない(刑法二七条)。とすれば、被告人を公職選挙法二五二条三項に規定する「第二百二十一条……の罪につき刑に処せられた者で更に第二百二十一条……の罪につき刑に処せられた者」とみるべきではないこと当然であつて、これを別異に解し前記前科の関係で被告人が右二五二条三項に該当するものとしたうえ、被告人に対し同項の公民権停止期間(一〇年)を六年に短縮する旨宣告した原判決は明らかに法令の適用を誤つたものというべきである。右の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決中被告人斎藤に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書によりさらに次のように判決する。

原判決が証拠により適法に確定した罪となるべき各事実に法令を適用すると、被告人の原判示第一の所為は刑法六〇条、公職選挙法二二一条一項一号(昭和五〇年法律第六三号附則四条により、同法律による改正前の公職選挙法の条項を適用する。以下同じ。)に、同第二の所為は包括して刑法六〇条、公職選挙法二四三条三号にそれぞれ該当するところ、右第一の罪は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により犯情の最も重い出光昭二に対する酒食饗応の罪の刑によつて処断することにし、以上第一、第二の各罪につき所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告人を罰金一〇万円に処することにする。被告人が右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。なお、公職選挙法二五二条四項により、被告人について同法条の一項に規定する選挙権および被選挙権を有しない期間を四年間に短縮する。

以上のとおりであるから、主文のように判決する。

(菅間英男 千葉裕 鈴木健嗣朗)

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